この記事でわかること
- パーソル総合研究所の約2万人規模の調査でわかった生成AI活用の実態
- AI活用で業務時間が平均16.7%削減されたという驚きのデータ
- それなのに4人に1人しか恩恵を感じていない理由
- AIをたくさん使う人ほど残業が長いという逆説的な事実
- 日本の会社がAIを活かしきれていない原因と解決策
「AIを使えば仕事が楽になる」——そう期待している方は多いのではないでしょうか。ところが、2026年2月3日にパーソル総合研究所が発表した大規模調査で、意外な現実が明らかになりました。
生成AI(ChatGPTなどの文章を作れるAI)を使っている人の業務時間は平均16.7%削減されています。しかし、実際に「仕事が楽になった」と感じているのは利用者の4人に1人だけ。さらに、AIをたくさん使う人ほど残業時間が長いという不思議な結果も出ています。
いったい何が起きているのか、やさしく解説します。
調査の概要:約2万人に聞いた生成AIの使い方
今回の調査はパーソル総合研究所が2025年10月に実施したもので、全国の就業者(働いている人)約19,855人を対象にしたスクリーニング調査と、そこから選んだ3,000人への詳細調査の2段階で行われました。
まず、日本ではどれくらいの人が生成AIを仕事で使っているのでしょうか?
- 業務で生成AIを使っている人:全就業者の32.4%(推計約1,840万人)
- ヘビーユーザー(週4日以上使う人):11.7%
- ミドルユーザー(週1〜3日使う人):12.4%
- ライトユーザー(月に数日以下):8.4%
つまり、日本の働く人の約3人に1人がすでに生成AIを仕事に使っていることになります。思ったより多いと感じた方もいるかもしれません。
業務時間16.7%削減のカラクリ
調査によると、生成AIを使うことでタスク単位の業務時間は平均16.7%(週あたり約26.4分)削減されています。用途別に見ると、効果が大きいのは以下の作業です。
- 企画・相談・思考整理:週36.9分の削減
- 文書・資料作成:週35.1分の削減
- データ分析:週33.6分の削減
たとえば、会議の議事録をAIにまとめてもらったり、企画書の叩き台をAIに作らせたりすることで、確かに時間は短くなっています。
ところが、ここに大きな落とし穴があります。
削減された時間の61.2%が「別の仕事」に使われているのです。しかも、その75.4%は「いつもの日常業務」に充てられています。つまり、AIで浮いた時間は「新しいことに挑戦する時間」ではなく、「たまっていた仕事を片づける時間」になっているわけです。
これが「業務時間は減っているのに、4人に1人しか楽になっていない」という矛盾の正体です。
AIヘビーユーザーほど残業が長い?逆説の理由
この調査でもっとも驚きの結果がこちらです。
- ヘビーユーザー(週4日以上AI利用):週平均残業8.34時間
- ミドルユーザー(週1〜3日利用):週平均残業7.79時間
- ライトユーザー(月数日以下):週平均残業5.08時間
- AI非利用者:週平均残業4.99時間
AIをたくさん使っている人のほうが、使っていない人より残業が約1.7倍も長いのです。
「AIを使えば早く帰れるはず」と思いますよね。でも現実は逆でした。パーソル総合研究所はこう分析しています。
「もともと残業が多い忙しい人ほどAIを積極的に使っている」という構造があるのです。たとえるなら、もともと荷物が多い人がキャリーケースを使っているようなもの。キャリーケース(AI)があっても、荷物の量(仕事量)自体が減るわけではありません。
ちなみに、管理職の利用率を見ると部長62.0%、課長58.3%と非常に高い一方、一般社員は35.5%にとどまります。忙しい管理職ほどAIに頼っている実態が浮かび上がります。
業種・地域で広がるAI格差
生成AIの利用状況は、業種や地域によって大きな差があります。
業種別の利用率
- 情報通信業(IT企業など):61.3%(ダントツ1位)
- IT・開発職:64.5%
- 配送・物流・運輸:低水準
IT業界では6割以上が使っている一方、体を動かす仕事が中心の業種では、まだまだAIの恩恵が届いていません。
地域別の利用率
- 東京:41.4%(突出して高い)
- 福井・新潟・高知など:20%未満
東京と地方では2倍以上の格差があります。これは、IT企業や大企業が東京に集中していることが大きな原因です。大企業(1,000人以上)のほうが中小企業(100人未満)より利用が進んでおり、会社の規模による格差も目立ちます。
AIを使いこなせる人・使いこなせない人の違い
調査では、生成AIの「成熟度」(どれだけ上手に使えているか)に大きな個人差があることもわかりました。
成熟度の高い人と低い人を比べると、こんな差があります。
- 活用する用途の幅:高い人は低い人の約2倍(4.78対2.15)
- 時間削減の効果:高い人は低い人の約2.3倍
では、AIを上手に使える人にはどんな特徴があるのでしょうか?
調査で最も影響が大きかったのは「問いを楽しむ志向性」です。つまり、「こうしたらどうなるだろう?」と試行錯誤を楽しめる人ほど、AIを使いこなせています。もうひとつ重要なのは「他者と共有する志向性」。自分が見つけた便利な使い方を周りに教えたがる人ほど、上達が早いのです。
たとえるなら、料理と同じです。レシピ通りに作るだけの人より、「この調味料を変えたらどうなるかな?」と試す人のほうが料理上手になりますよね。
企業はAIとどう向き合うべき?3つの提言
パーソル総合研究所は、調査結果をもとに企業への3つの提言を出しています。
提言1:浮いた時間の「使い道」を決める
AIで削減した時間の6割が日常業務に消えている現状を変えるため、最低2割は「改善」や「新しい挑戦」に使うというルールを設けることが推奨されています。
提言2:「試す人」と「広げる人」の役割分担
IT部門が新しい使い方を試し、人事・広報部門がそれを社内に広める——この役割分担が重要です。経営層自らがAIを使って見せることも、社員の意識を変える大きなカギになります。
提言3:相談できる仕組みを作る
「使い方がわからない」「どの業務で使えるかイメージできない」が非利用の大きな理由です。社内に相談窓口やレビューの仕組みを作り、一部の詳しい人だけに負担が集中しない体制が必要です。
まとめ
今回の調査のポイントを振り返ります。
- 日本の就業者の32.4%(約1,840万人)が生成AIを業務利用
- タスク単位で平均16.7%(週26.4分)の業務時間を削減
- しかし恩恵を実感しているのは利用者の約25%(4人に1人)だけ
- 削減時間の61.2%がそのまま別の仕事に吸収されている
- ヘビーユーザーは非利用者より残業が約1.7倍長い
- 情報通信業61.3% vs 物流業は低水準、東京41.4% vs 地方20%未満と格差が顕著
- AI活用の鍵は「問いを楽しむ姿勢」と「周囲と共有する文化」
生成AIは確かに仕事を効率化するツールです。しかし今の段階では、「浮いた時間をどう使うか」が設計されていないことが最大の課題です。AIを導入するだけでなく、組織全体で「時間の使い方」を見直すことが、本当の意味での恩恵につながるのではないでしょうか。


