にじボイス終了の理由とは?AI音声の声の権利問題を解説

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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この記事でわかること

  • AI音声サービス「にじボイス」がサービス終了した理由
  • 日本俳優連合(日俳連)が53件もの削除要請を出した背景
  • 「声の権利」とは何か? 今の法律ではどうなっているのか
  • 声を守りながらAIを活用する新しい取り組み
  • AI音声の未来と私たちが知っておくべきこと

にじボイスとは?どんなサービスだったのか

「にじボイス」は、DMM傘下のAlgomatic(アルゴマティック)が運営していたAI音声生成サービスです。テキストを入力するだけで、AIが自然な声で読み上げてくれる仕組みでした。

2024年12月にスタートし、100体以上のキャラクターボイスが用意されていました。好きなキャラクターを選んで文章を入力すると、そのキャラの声で音声ファイルを作れるという、クリエイターに人気のサービスでした。

しかし、2026年2月4日をもってサービスは完全に終了しました。開始からわずか1年あまりでの撤退てったいです。いったい何が起きたのでしょうか?

なぜサービス終了に?日俳連の削除要請53件

きっかけは、日本俳優連合(日俳連)からの指摘でした。日俳連は声優や俳優が所属する事業協同組合じぎょうきょうどうくみあいです。

2025年11月、日俳連は「にじボイスのキャラクターボイスが、組合員の声に酷似こくじしている」として、33体のキャラクターの削除を要請しました。Algomaticはこの要請を受けて該当キャラクターを削除します。

しかし、その2日後にはさらに追加で20体の削除要請が届きました。合計53体もの削除要請です。

ここで重要なのは、Algomaticは「法的な権利侵害しんがいは認められなかった」と説明していた点です。つまり、法律に違反していないのにサービスを終了せざるを得なかったのです。

Algomaticは終了の理由をこう説明しています。「にじボイスは、声の権利を守るためのプラットフォームとして立ち上げた。しかし、実演家じつえんかの『声が似ている』という指摘に対して、『それは主観だ』と主張することが、生身の人間にとってどう感じられるかを考えた」と。

そもそも「声の権利」って何?法律の空白地帯

私たちの顔には「肖像権しょうぞうけん」という権利があります。勝手に写真を撮られたり、使われたりしない権利です。では「声」はどうでしょうか?

実は、日本の法律では「声」そのものを直接守るルールがまだありません

著作権法では、歌の旋律せんりつや歌詞は守られますが、「声の特徴」自体は保護の対象外です。有名人の名前や顔を勝手に商売に使えない「パブリシティ権ぱぶりしてぃけん」という権利もありますが、声だけでこの権利が認められるかはまだ曖昧あいまいです。

たとえるなら、家のドアには鍵があるけれど、窓には鍵がない状態です。AIが声を学習して似た声を作っても、現状の法律ではグレーゾーンなのです。

文化庁もこの問題を認識しており、生成AIと声の保護について議論を進めています。しかし、明確な法整備はまだこれからの段階です。

声優たちの危機感|267人の声が無断使用されていた

にじボイスの問題は氷山ひょうざんの一角にすぎません。日俳連が2023年12月〜2024年2月に行った調査では、267人もの声優の声がAIに無断で使われていたことがわかりました。

声優の山寺宏一さん、梶裕貴さん、浪川大輔さんなど有名声優を含む25名以上が「No More 無断生成AI」というグループを結成。声の無断使用に対する抗議こうぎ活動を展開しています。

声優にとって「声」は商売道具そのものです。AIに声を真似されると、ナレーションやゲームの仕事が奪われるかもしれません。「自分の声で稼いでいるのに、勝手にコピーされるのは困る」という声は切実です。

一方で、AI音声の技術は動画制作やアクセシビリティ(障害を持つ方への支援)など、社会に役立つ面もあります。声優の権利を守りつつ、技術を活かす方法が求められています。

声を守りながらAIを活かす新しい取り組み

にじボイスの終了を受け、「声の権利」を守りながらAI音声を活用する動きが加速しています。注目すべき2つの取り組みを紹介します。

NTT西日本の「VOICENCE(ヴォイセンス)」

NTT西日本は2025年10月に、音声AI事業「VOICENCE」をスタートしました。声優や俳優の声を「音声IPおんせいアイピー(知的財産)」として管理するプラットフォームです。

ポイントは「公認AI」という仕組みです。本人の許可を得た声だけをAI学習に使い暗号あんごう技術(ブロックチェーン)で「この音声は正式に許可されたもの」と証明できるようにしています。

伊藤忠商事の「J-VOX-PRO」

伊藤忠商事は日俳連と協力して、公式音声データベース「J-VOX-PRO(仮称)」を立ち上げると発表しました。声優や俳優の声を正式に登録し、企業が使いたいときは本人の許可を得た上で有料で提供する仕組みです。

さらに「電子かし」や「声紋」の技術を使って、不正利用を見つけ出す機能も搭載します。

つまり、「勝手に使われる」から「正しく対価を払って使う」時代へ変わろうとしているのです。

海外ではどうなっている?アメリカとの比較

海外では声の権利に関する法整備が進んでいます。たとえばアメリカでは、いくつかの州で「声」も肖像権しょうぞうけんの一部として法的に保護されています。

有名な例として、俳優のスカーレット・ヨハンソンさんが、OpenAIのChatGPTに搭載された音声が自分の声に似ていると抗議し、OpenAIがその音声を取り下げた事件があります。

日本は声の権利保護に関して、まだ後発こうはつの立場です。ただ、にじボイスの一件をきっかけに議論は確実に進んでいます。今後、「声の肖像権しょうぞうけん」や「人声権じんせいけん」といった新しい権利が法制化される可能性もあると、専門家は指摘しています。

まとめ

今回のポイントをおさらいしましょう。

  • AI音声サービス「にじボイス」が2026年2月4日でサービスを終了した
  • 日俳連から53体のキャラクターの削除要請を受けたことがきっかけ
  • Algomaticは「法的な権利侵害はない」としつつも、声優への配慮から撤退を決断
  • 日本の法律では「声」を直接守るルールがまだないのが現状
  • NTT西日本「VOICENCE」や伊藤忠「J-VOX-PRO」など、声の権利を守りながらAIを活用する新しい仕組みが始まっている
  • 「勝手に使われる時代」から「正しく対価を払う時代」へ転換が進んでいる

AI音声の技術は今後も発展していきます。大切なのは、声の持ち主の権利を守りながら、技術の恩恵を社会全体で活かしていくことです。にじボイスの終了は、そのための大切な教訓を私たちに残してくれました。

参考文献

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