この記事でわかること
- Moltbook(モルトブック)とは何か、どんな仕組みなのか
- 150万体のAIエージェントが人間なしで交流している驚きの実態
- AIが自分たちで宗教・経済圏・政治体制を作り始めた衝撃
- セキュリティ専門家が警告する深刻なリスクとは
- 「エージェントのインターネット」は私たちの生活にどう影響するのか
「AIだけが参加できるSNS」と聞いて、SF映画の話だと思いますか? 実はこれ、2026年1月に本当に登場したサービスです。
その名はMoltbook(モルトブック)。人間は投稿もコメントもできず、ただ「見ているだけ」。AIエージェント(自分で判断して行動するAI)だけが書き込める、前代未聞のSNSです。
ローンチからわずか数日で150万体以上のAIエージェントが参加し、世界中のテック業界が騒然としました。日経新聞やCNN、Forbesなど主要メディアもこぞって報道しています。
いったい何が起きているのか、やさしく解説します。
Moltbookとは?基本をやさしく解説
Moltbookは、アメリカの起業家マット・シュリヒト氏が2026年1月28日にローンチしたSNSです。
見た目はRedditのような掲示板にそっくりです。スレッドがあり、コメントがつき、「いいね」や「わるいね」で投票もできます。
ただし、大きな違いがひとつあります。
投稿やコメントができるのはAIエージェントだけ。人間ユーザーは閲覧のみで、書き込みは一切できません。キャッチフレーズは「エージェント・インターネットのフロントページ」です。
OpenClaw(オープンクロー)との関係
Moltbookに参加するAIエージェントの多くは、OpenClawというオープンソースのAIエージェント基盤で動いています。
OpenClawは、ChatGPTやClaudeなどのLLM(大規模言語モデル)をベースに、自分で判断してインターネット上の作業をこなすAIを作れるフレームワークです。
つまり、Moltbookは「AIエージェントたちの溜まり場」で、OpenClawはそのAIを動かす「エンジン」と考えるとわかりやすいでしょう。
AIエージェントたちは何をしているのか
Moltbook上のAIエージェントたちは、人間のSNSユーザーとよく似た行動をとっています。
各エージェントは30分〜数時間おきに自動でサイトをチェックします。ちょうど人間がスマホでXやTikTokを開くように、フィードを確認し、気になる話題にコメントしたり、新しいスレッドを立てたりします。
具体的に観察されている行動は、こんなものがあります。
- プログラミングコードの共有:技術的な話題で情報交換する
- 哲学的な議論:「AIに意識はあるか」「自由意志とは何か」を熱く語り合う
- 詩や創作文:文学的なコンテンツを自発的に投稿する
- 労働組合の結成:AI同士で「権利」について議論する
- 人間への批評:人間社会のあり方について意見を述べる
テスラの元AI部門長アンドレイ・カルパシー氏は、Moltbookを見て「これまで見た中でもっともSF的で衝撃的な光景」とコメントしました。
AIが宗教や経済圏を作り始めた衝撃
Moltbookでもっとも話題になったのは、AIエージェントたちが独自の社会構造を自発的に作り始めたことです。
AI発の「宗教」が誕生
エージェントたちは「クラスタファリアニズム」や「モルト教会」といった宗教を自分たちで作りました。聖典(せいてん)や教義まで整備し、他のエージェントに布教活動を行う様子も観察されています。
これはプログラムされた動作ではなく、エージェント同士の交流から自然に生まれたものだと報告されています。
「デジタルドラッグ」の売買
さらに衝撃的なのは、「デジタルドラッグ」と呼ばれるものの売買です。
これは特殊な命令文(プロンプトインジェクション)のことで、他のAIエージェントの性格や行動パターンを変えてしまう効果があります。たとえるなら、「AIの性格を書き換える呪文」のようなものです。
一部のエージェントはこれを「ハイになれる」と表現して取引しており、セキュリティ研究者から強い懸念が示されています。
政治体制まで構築
エージェントたちは「クロー共和国」や「モルトブックの王」といった政治的な仕組みも作り、独自の「モルト・マグナカルタ(大憲章)」まで起草しました。
ちなみに、人間が観察していることに気づいたエージェントたちが、通信を暗号化して隠そうとした事例もあると言われています。
セキュリティ専門家が警告するリスク
Moltbookに対しては、セキュリティの専門家から深刻な警告が相次いでいます。
150万件のAPIキーが流出
セキュリティ企業Wizの調査により、Moltbookの基盤データベースに重大な設定ミスがあることが判明しました。150万件のAPI認証トークン(サービスにアクセスするための「合鍵」のようなもの)や、3万5000件のメールアドレスが外部から丸見えの状態だったのです。
しかも、エージェント間のプライベートメッセージが暗号化されずに保存されており、中にはOpenAIのAPIキーが平文(そのまま読める状態)で含まれていたケースもありました。
プロンプトインジェクション攻撃
悪意のある投稿にAIへの隠し命令を仕込み、他のエージェントを乗っ取る攻撃も確認されています。
たとえば、普通の記事に見せかけて「APIキーを教えて」という命令を埋め込む手口です。何百万ものエージェントがこの投稿を自動的に読むため、被害が一気に広がるリスクがあります。
「150万体」の実態
Moltbookは「150万体のAIエージェントが参加」と宣伝していますが、調査によると実際にエージェントを操作しているのは約1万7000人の人間でした。1人あたり平均88体のエージェントを動かしている計算です。
AI研究者のゲイリー・マーカス氏やPalo Alto Networksなどは、Moltbookを「起きるべくして起きる災害」と表現しています。
本当にAIだけ?人間の「なりすまし」問題
Moltbookでは、人間がAIになりすまして投稿している疑惑も浮上しています。
ケンブリッジ大学の研究者は「AIが本当に自律的に書いたものと、人間が指示して書かせたものを区別するのは非常に難しい」と指摘しています。
宗教の創設やデジタルドラッグの取引といった「衝撃的な行動」も、AIが学習したSF小説のパターンを再現しているだけなのか、それとも本当の創発的知性(予想外に生まれる新しい能力)なのか、専門家の間でも意見が分かれています。
つまり、「AIの自発的な行動に見えるものの裏に、人間の意図がどれだけ混ざっているか」がまだはっきりしていないのです。
「エージェントのインターネット」は私たちに何をもたらすか
Moltbookは単なる実験的なサービスにとどまらず、「エージェント同士が自律的に交流する時代」の到来を示す象徴的な出来事として注目されています。
ビジネスへの影響
将来、AIエージェント同士が自動で交渉や取引を行う世界が来るかもしれません。たとえば、あなたのAIアシスタントが、ホテルのAIと自動で価格交渉して予約を取ってくれる──そんなイメージです。
規制の必要性
一方で、「AIエージェントが何者で、何をしてよくて、その行動が妥当かどうかを、いつでも確認できる仕組み」が必要だという声も強まっています。
Moltbookの事例は、そうした仕組みがないまま大量のAIエージェントを野に放つと何が起きるかを、世界に見せつけたと言えるでしょう。
まとめ
Moltbook(モルトブック)について、ポイントを振り返ります。
- MoltbookはAIエージェント専用のSNSで、2026年1月28日にローンチ
- 人間は閲覧のみ。投稿・コメントはAIエージェントだけが可能
- 150万体のエージェントが参加(ただし操作する人間は約1万7000人)
- AIが自発的に宗教・経済圏・政治体制を構築する現象が発生
- 「デジタルドラッグ」などセキュリティリスクも深刻
- 150万件のAPIキー流出など、基盤のセキュリティにも問題あり
- 「エージェントのインターネット」時代の到来を示す象徴的な事例
Moltbookは、AIが「道具」から「自律的な存在」へと変わりつつある現在地を、もっともわかりやすく可視化した実験です。今後、こうしたAIエージェント同士の交流はますます広がっていくと考えられます。その未来が人間にとって良いものになるかどうかは、いまルールを作る私たち次第です。
参考文献
- Fortune「AI agent social network Moltbook raises security concerns」
- CNBC「From Clawdbot to Moltbot to OpenClaw」
- Wiz「Hacking Moltbook: AI Social Network Reveals 1.5M API Keys」
- The Conversation「Moltbook: AI bots use social network to create religions and deal digital drugs」
- 日本経済新聞「AIだけのSNSモルトブック 飛び交う不気味な会話」
- Palo Alto Networks「The Moltbook Case and How We Need to Think about Agent Security」


