- Googleが脆弱性の発見から修正までを自動化するOSS「Mantis」を公開した
- 15個の専門スキルが分業し、AIにありがちな「誤検知」をふるい落とす
- 階層サマリー方式で、巨大リポジトリでもトークン消費を85%以上削減
- ライセンスはApache-2.0で商用利用も可能、GitHubで誰でも入手できる
- 日本の開発現場では「セキュリティ人材50万人不足」を埋める一手になりうる
AIにコードを診断させたら、指摘が100件返ってきた。でも本物のバグは数件だけ——そんな経験はありませんか。Googleが2026年9月に公開した「Mantis(マンティス)」は、この誤検知だらけ問題に正面から挑むオープンソースです。何がどう変わるのか、順番に見ていきます。
Googleが公開した「Mantis」とは
Mantisは、AIコーディングエージェントにセキュリティ診断をやらせるためのスキル集(ツールキット)です。
Google Cloudの公式ブログで2026年9月3日に発表され、GitHubの「google/mantis」で誰でも入手できます。ライセンスはApache-2.0。企業が自社サービスに組み込んでも問題ありません。
できることは4つ。脆弱性(プログラムの穴)を探す・確かめる・実際に再現する・直すまでを、AIエージェントに一気通貫でやらせます。
Gemini CLIやAntigravity CLIといった、コマンドラインで動くAIエージェントから呼び出して使う設計です。特定の言語やフレームワークに縛られない「スタック非依存」をうたっています。
なぜ「誤検知」がそこまで問題なのか
Googleがこのツールを作った理由は、既存のAIコードスキャンの精度の低さにあります。
公式の説明によれば、雑に作られたAIスキャンでは真陽性率(指摘のうち本物のバグだった割合)が7%を切ることもあるとされています。
100件の指摘のうち、93件が空振り。それを人間が1件ずつ潰していく作業を想像してみてください。
リリース前夜のエンジニアが、AIの出した指摘リストを深夜まで確認する。ほとんどが「そこは外部から呼ばれないので問題ない」という結論に終わる。これでは導入するほど現場が疲弊します。
Mantisはここを批評役のAIとサンドボックス(隔離した実験環境)での再現という2段構えで削りにいきます。
15のスキルが「分業」する仕組み
Mantisの中身は、15個の独立したスキルです。1つのAIに全部やらせるのではなく、工程ごとに担当を分けます。
前半:コードベースを理解するフェーズ
最初に動くのはmantis-history。Gitの履歴をさかのぼり、そのプロジェクトが過去にどんな脆弱性を直してきたかを拾います。
次にmantis-structural-indexがコードの構造を索引化し、mantis-summarizeがディレクトリの地図を作ります。
そのうえでmantis-architectureがコードベース全体の設計像をまとめ、mantis-threat-modelが「どこが狙われやすいか」の脅威モデルを組み立てます。
ここまでで、AIは「このプロジェクトはこういう作りで、ここが弱点になりやすい」という土地勘を持った状態になります。
後半:探して、疑って、直すフェーズ
mantis-planが外部との接点を洗い出し、mantis-researcherが並列でスキャンをかけます。
ここからが本番です。mantis-dedupeが重複した指摘をまとめ、mantis-reviewが本当にコード上で成立するかを検証し、mantis-criticが「理屈上は言えるが実際には起こせない」指摘を落とします。
生き残った候補はmantis-reproduceへ。サンドボックスの中で実際に攻撃を再現し、動いたものだけが本物と認められます。
その後はmantis-chainが複数の穴をつなげた攻撃経路を組み立て、mantis-patchが最小限の修正を当てて検証。mantis-calibrateが危険度を採点し、mantis-reflectが今回の実行から得た知見を蓄積します。
さらにmantis-adviseというスキルもあり、蓄積した知見をもとに「そもそも最初から安全なコードを書かせる」方向にも使えます。
トークン85%削減の正体
Mantisのもう一つの目玉が、コスト面です。
大規模なリポジトリをそのままAIに読ませると、コンテキスト(AIが一度に読める文章量)を食い尽くします。数十万行のコードを丸ごと投げれば、API料金だけが膨らんで結果は薄い、という事態になりがちです。
Mantisが使うのが階層セキュリティサマリーツリーという手法です。
個々のファイルの要約をディレクトリ単位にまとめ、さらにルート階層へ積み上げていきます。全文を読ませる代わりに、必要な階層の要約だけを渡す設計です。
これによりGoogleはトークンのオーバーヘッドを85%以上削減したと説明しています。しかも、リポジトリ全体の構造的な文脈は保ったままです。
ざっくり言えば、分厚い辞書を全ページ読ませるのをやめて、目次と見出しから必要な項目だけ引かせるようにした、ということになります。
他のAIセキュリティツールとの違い
実は2026年、この分野は一気に混み合いました。セキュリティ企業Semgrepが公開した比較記事では、10近いオープンソースの「AIセキュリティharness」が並んでいます。
代表的なものを挙げます。
- Trail of Bitsのskills:セキュリティコンサルの知見を約40個のスキルにしたもの(CC-BY-SA)
- Cloudflareのsecurity-audit-skill:6段階の多エージェント監査(MIT)
- VisaのVVAH:11段階のパイプラインで42言語に対応(Apache)
- Vercel Labsのdeepsec:Webスタック特化で正規表現→AI調査→再検証の流れ(Apache)
- Ciscoのai-deep-sast:8Bの小型モデルで完全ローカル実行できる唯一の選択肢(Apache)
この中でMantisの立ち位置は「土台」です。Semgrepの比較でも、厳密な手順書ではなく出発点として設計されている、と整理されています。
従来型のSemgrepやCodeQLといった静的解析ツールは、既知のパターンを高精度で見つけるのが得意です。ただし過去に見つかった型が中心という弱さもあります。
Mantisはむしろ、そうした静的解析ツールの出力をAIへの入力として使い、探索範囲を絞る使い方を想定しています。つまり置き換えではなく、上に載せる層という位置づけです。
日本の開発現場にどう効くのか
日本にとって、この手のツールが無償で出てくる意味は小さくありません。
経済産業省の推計では、日本のサイバー人材の不足は約50万人規模とされています。MM総研の調査でも、企業の82%がセキュリティ人材の不足を感じているという結果が出ています。
10人規模でWebサービスを運営する会社を考えてみてください。専任のセキュリティ担当者はいません。リリース前のチェックは、機能開発をしているエンジニアが片手間でやるしかない。
そこにMantisのような「まず一通り調べて、再現できたものだけ持ってくる」仕組みがあれば、少なくとも見落としの母数は減らせます。
もう一つ、コスト面も現実的です。日本企業の生成AI導入では「効果が見えないのに請求だけ来る」ことが導入のブレーキになりがちです。トークン85%削減という数字は、その不安に直接効きます。
一方で課題も明確です。IPAも指摘するように、AIとセキュリティの両方に詳しい人材そのものが足りません。ツールを走らせても、最後に指摘の妥当性を判断する人がいなければ回りません。
使う前に知っておくべき注意点
Mantisは万能薬ではありません。Google自身がかなり強い調子で釘を刺しています。
第一に、必ず隔離された制限環境で動かすこと。本番システムや社内ネットワークにつながる場所で実行してはいけません。攻撃の再現を実際に走らせるツールだからです。前提環境としてDockerが必要で、gVisor(runsc)の併用が推奨されています。
第二に、出てきた結果は人間が確認すること。AIモデルは非決定的で、存在しないバグをでっち上げたり、間違った修正パッチを書いたりします。報告前に専門家の目を通す前提です。
第三に、人間の知識を足すほど精度が上がる設計だという点です。「ユーザーが自分でプログラムをクラッシュさせるだけのバグは対象外」といった判断基準を渡しておくと、無駄な指摘が減ります。
GitHubのスター数は公開から数日で1,100を超えました(2026年9月8日時点)。注目度は高いものの、生まれたばかりのツールであることは忘れないほうがよさそうです。
よくある質問(FAQ)
Q. 無料で使えますか?
Mantis自体はApache-2.0ライセンスのオープンソースで、無料です。ただし動かすAIエージェント側のAPI利用料は別途かかります。トークン削減の仕組みがあるのは、この費用を抑えるためです。
Q. Gemini以外のAIでも動きますか?
公式が例に挙げているのはGemini CLIとAntigravity CLIです。ただしMantisの中身は特定の製品に依存しないスキル定義なので、他のコーディングエージェントでも動かせる余地があります。
Q. プログラミングが分からなくても使えますか?
難しいです。DockerやCLIの操作が前提で、最後は指摘内容の妥当性を判断する必要があります。開発チーム向けのツールと考えるのが現実的です。
Q. これがあればセキュリティ診断業者はいらなくなりますか?
なりません。Google自身が「すべての発見は専門家による手動確認が必要」と明記しています。むしろ専門家が単純作業に費やす時間を減らし、判断に集中させるための道具です。
Q. 個人の趣味プロジェクトでも意味はありますか?
あります。公開しているWebアプリやライブラリなら、外部からの入口を洗い出すだけでも価値があります。ただし隔離環境の用意は必須です。
まとめ
- GoogleがOSS「Mantis」を2026年9月に公開。脆弱性の発見・再現・修正をAIエージェントに任せる
- 15個のスキルが分業し、批評役とサンドボックス再現で誤検知をふるい落とす
- 階層サマリーツリーでトークンのオーバーヘッドを85%以上削減
- Apache-2.0ライセンスで商用利用も可能、GitHubから入手できる
- ただし隔離環境での実行と、人間による最終確認が必須
まずは自分が管理する小さなリポジトリで、隔離環境を用意したうえで一度走らせてみるところから始めるのがおすすめです。
参考文献
- Getting started with the Mantis harness to find and fix bugs(Google Cloud Blog, 2026年9月3日)
- GitHub – google/mantis
- Googleが脆弱性の発見・再現・修正を自動化するOSS「Mantis」を公開(GIGAZINE)
- Google Mantis: An Agentic Vulnerability Scanning Harness for Reducing False Positives(InfoQ)
- Comparing Open-Source AI Code Security Harnesses(Semgrep)
