2026年2月3日、世界の株式市場で「SaaSpocalypse(サースポカリプス)」と呼ばれる大暴落が起きました。たった1日で約43兆円もの時価総額が消え去ったのです。その引き金となったのは、AI企業Anthropic(アンソロピック)の新ツール「Claude Cowork」でした。
この記事でわかること
- 「アンソロピック・ショック」がどんな出来事だったのか
- Claude Coworkとプラグインの仕組み
- SaaS企業の株がなぜ暴落したのか
- 日本の企業にどんな影響があったのか
- 今後SaaSビジネスはどうなるのか
そもそも何が起きたの?「アンソロピック・ショック」とは
2026年1月30日、AI企業のAnthropic(アンソロピック)が「Claude Cowork」という自社ツールに11種類の業務プラグインを追加しました。法務、金融、営業、マーケティングなど、これまでSaaS(サース=インターネット経由で使えるソフトウェア)が得意としていた分野を、AIが自律的にこなせるようになったのです。
これを受けて、2月3日の株式市場では世界中のSaaS関連企業の株が一斉に暴落しました。わずか1日で約2,850億ドル(約43兆円)が市場から消えたことから、投資家たちはこれを「SaaSpocalypse(SaaSの終末)」と呼ぶようになりました。
Claude Coworkってどんなツール?
Claude Coworkは、Anthropicが2026年1月12日に公開したAIツールです。ざっくり言うと、パソコンの中の「超優秀な部下」のような存在です。
たとえば「この契約書のリスクをチェックして」と日本語で指示するだけで、AIが自分で考えて、必要なファイルを開き、分析し、結果をまとめてくれます。つまり、人間がソフトウェアを使って手作業でやっていた仕事を、AIが代わりにやってくれるわけです。
1月30日に追加された11種類のプラグインには、こんなものがあります。
- 法務プラグイン:契約書レビュー、秘密保持契約の仕分け、コンプライアンス対応
- 金融プラグイン:財務データの分析、レポート作成
- 営業プラグイン:見込み客の分析、商談管理
- マーケティングプラグイン:キャンペーン企画、ブランドに合ったコピー作成
- 人事プラグイン:履歴書のレビュー、面接スケジュール管理
- 戦略プラグイン:市場調査、競合分析
しかも、これらのプラグインはオープンソース(誰でも無料で使える)として公開されました。企業が自社に合わせてカスタマイズすることもできるのです。
なぜSaaS企業の株が暴落したのか
ここが今回のショックの本質です。これまでのAIは「Copilot(コパイロット=人間のサポート役)」でした。人間が主役で、AIはあくまでお手伝いという位置づけです。
ところがClaude Coworkのプラグインは、「Agent(エージェント=自分で判断して行動するAI)」という新しいモデルです。人間が指示を出せば、AIが自分で考え、必要なツールを使い、仕事を最初から最後まで完了させます。
つまり、投資家たちはこう考えたのです。
「SaaS企業は1人あたり月額いくらという形で課金している。でもAIエージェントが仕事をやってくれるなら、そもそもSaaSを契約する人数が減るのでは?」
SaaSのビジネスモデルは「シート課金」と呼ばれ、利用者の人数に応じて料金が発生します。AIが人間の代わりに仕事をすれば、ソフトウェアを使う「人間の席」が不要になるかもしれない——。この恐怖が一気に広がりました。
実際に大きく値を下げた企業を見てみましょう。
- Thomson Reuters(トムソン・ロイター):前日比15.83%下落——過去最大の下げ幅
- LegalZoom(リーガルズーム):前日比19.68%下落
- Salesforce(セールスフォース):約7%下落
- ServiceNow(サービスナウ):約7%下落
- London Stock Exchange Group:13%下落
日本のSaaS企業にも直撃した影響
「アンソロピック・ショック」は海の向こうだけの話ではありませんでした。日本の株式市場にも大きな波が押し寄せました。
2月4日、日本のSaaS関連銘柄が軒並み急落しました。
- Sansan(名刺管理):約17%下落——国内SaaS銘柄で最大の下げ
- freee(クラウド会計):約14%下落
- ラクス(経費精算):13.50%下落
- 弁護士ドットコム:9.29%下落
- マネーフォワード:大幅下落
特に法務関連のサービスを提供する弁護士ドットコムは、Claude Coworkの法務プラグインが直接の競合になると見なされ、投資家の売りが集中しました。
ちなみに、Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)がまとめたソフトウェア株の指数は6%下落。S&P 500のソフトウェア・サービス指数は8営業日連続で下落し、年初から約20%も値を下げています。
専門家はどう見ている?「SaaSは本当に死ぬのか」
結論から言うと、専門家の意見は分かれています。
IT調査会社のGartner(ガートナー)は「SaaSやエンタープライズアプリケーションの死を予測するのは時期尚早だ」と指摘しています。Coworkのプラグインは「タスクレベルの知識労働には影響を与えるが、重要なビジネス基幹業務を管理するSaaSアプリケーションの代替にはならない」という見方です。
一方で、Bank of America(バンク・オブ・アメリカ)は興味深い指摘をしています。「今回の売りは2つの矛盾するシナリオに基づいている。AIへの投資が弱まるほどROI(投資対効果)が低いのに、同時にAIの普及がソフトウェアを完全に置き換えるほど進む——この2つは同時には起こり得ない」と述べています。
つまり、市場はやや過剰に反応した可能性があるということです。ただし、2024年〜2025年が「AIの誇大宣伝の時代」だったとすれば、2026年は「AIによる代替の時代」に入ったと言われています。長期的にはSaaS業界が大きく変わることは間違いなさそうです。
私たちの生活にはどう影響する?
「株の話でしょ?自分には関係ない」と思うかもしれません。でも、この変化は私たちの働き方を大きく変える可能性があります。
たとえば、こんな未来が考えられます。
- ソフトの使い方を覚えなくてもいい:複雑なExcelの関数や、業務ソフトの操作方法を覚える必要がなくなるかもしれません。「売上レポートを作って」と言えばAIがやってくれます
- 中小企業も大企業並みの業務効率に:高いSaaSを契約できなかった小さな会社でも、AIエージェントを使えば同じレベルの業務処理ができるようになります
- 新しい仕事が生まれる:AIに正しい指示を出す「プロンプトエンジニア」や、AIの仕事を監督する「AIマネージャー」といった新しい職種が増えると予想されています
一方で、定型的な事務作業をメインにしている仕事は、AIへの置き換えが加速する可能性があります。大切なのは、AIを「脅威」ではなく「道具」として使いこなすスキルを身につけることかもしれません。
まとめ
今回の「アンソロピック・ショック」のポイントを振り返りましょう。
- Anthropicの「Claude Cowork」に11種類の業務プラグインが追加され、法務・金融・営業などの業務をAIが自律的にこなせるようになった
- これを受けて世界のSaaS関連株が暴落し、1日で約43兆円(2,850億ドル)の時価総額が消失した
- 日本でもSansan、freee、ラクスなどの国内SaaS銘柄が大幅に下落した
- AIの役割が「サポート役(Copilot)」から「自律実行者(Agent)」に変化したことで、SaaSのシート課金モデルへの脅威が意識された
- 専門家の見方は分かれるが、SaaS業界が長期的に大きく変化することは避けられない
- 私たちに求められるのは、AIを道具として使いこなすスキルを身につけること
AIの進化は止まりません。でも、新しい技術が登場するたびに「○○は終わった」と騒がれてきた歴史があります。インターネットが登場したとき「本屋は消える」と言われましたが、形を変えて生き残っています。SaaS企業も、AIとの共存の道を見つけていくことでしょう。
大切なのは、変化を恐れるのではなく、変化の中身を正しく理解することです。
参考文献
- たった一日で43兆円が消えた日 Anthropic「Cowork」が揺るがしたSaaS神話 – ITmedia
- SaaS業界に激震、「Claude Cowork」と「OpenClaw」の破壊力 – 日経クロステック
- Selloff wipes out nearly $1 trillion from software and services stocks – Yahoo Finance
- AI fears pummel software stocks: Is it ‘illogical’ panic or a SaaS apocalypse? – CNBC
- 【急落】国内SaaS株も「アンソロピック・ショック」直撃 – NewsPicks


