• Anthropicが自社の営業窓口に「購買エージェント」を導入。1日数千件の問い合わせ会話をAIがこなしています
  • AIと話してから営業に引き継がれた見込み客は、従来フォームの2倍超の割合で商談に進みました
  • 成約までの期間は約5日短縮。話題の「2.5倍」は担当者1人の成果で、チーム全体の数字ではありません
  • 最初の版はエンジニア1人が数週間で作成。土台は「Claude Managed Agents」です
  • コツは「ルールではなくゴールを渡す」こと。日本企業の問い合わせ対応にも応用できます

会社のサイトから問い合わせを送ったのに、返事が来たのは3日後。そんな経験はありませんか?

実はAI企業のAnthropic(アンソロピック)も、同じ問題を抱えていました。この記事では、同社がAIで営業窓口を作り直した方法と成果、日本企業がまねできるポイントを解説します。

返事に数日かかっていた|Anthropicの営業で起きたこと

2026年9月30日、Anthropicは自社の営業チームの事例を公式ブログで公開しました。

書いたのは、営業開発リーダーのカール・ジョンソン氏です。

テーマはインバウンド営業(お客さんからの問い合わせに対応する営業)の作り直しでした。

毎月数万件の問い合わせが「待ち行列」に

これまでの流れはこうです。Claudeを会社で使いたい人が、サイトの「営業に問い合わせ」フォームに入力します。

その内容が営業担当者に回され、担当者がメールで返事をします。

ところが、問い合わせは毎月数万件。返事までに時間がかかり、数日待たせることもありました。

しかも質問の多くは、料金、最低契約人数、セキュリティ要件といったシンプルなものでした。

人気店のレジに長い行列ができているのに、みんなが聞きたいのは「営業時間は何時まで?」だけ。そんな状態だったわけです。

解決策は「購買エージェント」

そこで同社が作ったのが購買エージェント(Buying Agent)です。

AIエージェント(目的に向かって自分で考えて動くAI)が、問い合わせにその場で答えます。

「会社でClaudeを使いたい」という相談から、購入の完了までを案内します。現在は1日に数千件の会話をこなしているそうです。

会話の流れと3つの結末

やり取りは、次の順番で進みます。

  1. お客さんが、やりたいことを自分の言葉で伝える
  2. エージェントが追加の質問をして、状況をつかむ
  3. 最適なプランと利用人数(シート数)を提案する

そのあとの結末は3パターンです。そのまま購入手続きへ進む。複雑な案件は会話の内容を添えて営業担当者に引き継ぐ。質問に答えるだけで終わる。このどれかになります。

ある20人のスタートアップを想像してみてください。代表が夜11時に料金ページを開き、「20人で使うならどのプラン?」と質問します。

エージェントは使い方やセキュリティの希望を聞き、プランと人数を提案します。代表はその夜のうちに購入手続きへ進めます。

以前なら、フォームを送って数日後の返事を待つしかありませんでした。

設置場所は4か所、使うかどうかは選べる

エージェントがいるのは、営業問い合わせページ、料金ページ、Claudeの製品内、そしてメールの4か所です。

大事なのは、これがオプトイン(希望した人だけが使う方式)であること。お客さんは最初に、AIと話すか人間の担当者と話すかを選べます。

成果の数字|「2.5倍」は誰の話?

公式ブログが挙げた成果は次のとおりです。

指標結果
商談に進む割合従来フォーム経由の2倍超
成約までの期間約5日短縮
人の助けが必要な会話の割合約半分に減少
ある担当者のメール往復約10通→約6通
同じ担当者の成約実績2.5倍

上の2つは、エージェントと話してから営業に引き継がれた見込み客を、従来のフォーム経由の見込み客と比べた数字です。

エージェントと話した人は、何を買うのかをよく理解した状態で担当者のもとへやって来ます。だから話が早いのです。

「成約2.5倍」には注意が必要

一部の報道では「成約件数が2.5倍」が見出しになりました。

しかし元のブログを読むと、これはインサイドセールス(電話やメールで営業する内勤の担当者)のOjasさん1人の数字です。

彼は以前、1件の契約をまとめるのに約10通のメールをやり取りしていました。今は約6通で済みます。

その結果、成約の実績が導入前の2.5倍になった、という話です。

チーム全体の成約数が2.5倍になったとは書かれていません。社内の資料などで引用するときは気をつけましょう。

また、これらはすべてAnthropic自身の発表です。第三者が検証した数字ではない点も、頭に入れておきたいところです。

エンジニア1人・数週間で作れた理由

土台はClaude Managed Agents

購買エージェントはClaude Managed Agents(クロード・マネージド・エージェンツ)の上で動いています。

これは、AIエージェントを動かすための裏方仕事をAnthropicが引き受けてくれるサービスです。2026年4月8日に公開ベータ版(お試し段階の一般公開)が始まりました。

料金は、通常のAPI利用料に加えて、稼働1時間あたり0.08ドル(約12円)。待機中の時間には課金されません。

材料は「指示文と少しのツール」だけ

ブログによれば、エージェントの中身は「プロンプト(AIへの指示文)、いくつかのツール、そしてClaude」だけです。

最初の版はエンジニア1人が数週間で作りました。

知識のもとになったのは、社内資料とサポート記事です。料金、セキュリティ、データの扱いなどの質問に答えられます。

営業担当が自分でAIを直す

面白いのは改善の進め方です。

コードの管理はエンジニアが担当します。一方、指示文は営業やコンテンツの責任者が、管理画面で直接書き換えます。

検証用の環境で試してから、本番に反映する流れです。

社内テストの開始から約1週間で、エージェントはバージョン7まで進みました。公開後も毎週、指示文を見直しているそうです。

うまくいった4つのコツ

1. ルールではなくゴールを渡す

手順を細かく並べた指示よりも、大きな目的を1つ渡すほうがうまくいったそうです。

実際に使われたのは、こんな一文でした。「あなたのゴールは、顧客の要件を理解し、見込み客を見きわめ、最適なプランを勧めることです」。

これは新人教育に似ています。分厚いマニュアルを暗記させるより、「お客さんに一番合うものを勧めて」と伝えたほうが、臨機応変に動けます。

2. 指示は少ないほどいい

複雑な指示文よりも、背景情報を添えたシンプルな指示文のほうが成績がよかったといいます。

つまり「あれもこれも禁止」と書き足すほど、AIは動きにくくなるのです。

3. 人に引き継いだ理由を「宿題」にする

エージェントは担当者に引き継ぐとき、その理由も説明します。

チームはこの理由を1件ずつ、改善のヒントとして扱いました。

その結果、契約までに人の助けが必要な会話の割合は約半分に減りました。

4. 売上より「正しい答え」を優先する

エージェントは小さなチームに対して、大企業向けのEnterpriseプランではなくTeamプランを勧めることがよくあります。

同社はこれを「欠陥ではなく仕様」だと説明しています。お客さんに合う答えを出すことが、信頼につながるという考え方です。

ほかの営業AIとどう違う?主要サービスと比較

問い合わせ対応をAIに任せるサービスは、すでにいくつもあります。

サービス特徴向いている会社
Anthropic 購買エージェント(自社開発)Managed Agents上に自作。相談から購入完了まで案内自社で開発できる会社
Qualified「Piper」サイト訪問者にチャット・音声・メールで対応し、商談予約まで自動化Salesforceを使う会社
Salesforce「Agentforce」CRM(顧客管理システム)のデータと直結。1会話2ドル(約310円)などの料金体系Salesforce中心の大企業
HubSpot「Breeze」HubSpotの契約に組み込まれたAIエージェント群HubSpotを使う中小〜中堅企業
immedio(日本)問い合わせ直後に、担当者の割り当てと商談の日程調整を自動化国内のBtoB企業

多くの製品は「商談の予約を取る」ところがゴールです。たとえばSalesforceは、自社サイトにPiperを30日で導入し、週60件以上の商談を設定したと公表しています。

一方、Anthropicの購買エージェントは購入の完了まで案内します。営業担当者を通さずに契約が終わるケースがある点が、大きな違いです。

社内向けAIとの使い分け

同社には別の事例もあります。2026年8月に紹介された営業担当者は、問い合わせへの返信に1日約5時間を使っていました。

彼はClaude Cowork(Claudeにパソコン上の作業を任せられる機能)で、返信の下書き作りを自動化しました。ただし「送信の前に必ず人が読む」ルールを守っています。

担当者を助けるAIは「人が最終確認」。お客さんと直接話すAIは「選択制で、難しい案件は人に引き継ぐ」。この使い分けは参考になります。

日本企業への影響|明日からまねできること

日本でも同じ仕組みを作れる

Claude Managed Agentsは、日本からもAPI経由で利用できます。早期の導入企業には楽天の名前も挙がっています。

Claudeは日本語を扱えるので、日本語の問い合わせ窓口も作れます。

稼働1時間あたり約12円とAPI利用料で動くため、小さく試しやすいのも利点です。

「金曜夕方の問い合わせ」を逃さない

日本のBtoB企業でよくある場面を考えてみましょう。金曜の18時、ある製造業の担当者が、SaaS企業のサイトから料金の質問を送ります。

返事が届くのは月曜の午後。その間に担当者は、すぐ答えてくれた別の会社と話を進めてしまいました。

AIが窓口にいれば、金曜の夜のうちに料金や導入条件に答えられます。月曜は、内容を理解したお客さんとの商談から始められるのです。

導入前に決めておきたい3つのこと

  • AIと人のどちらと話すかを、お客さんが選べるようにする
  • 答えのもとになる料金表・FAQ・利用規約を整えておく
  • 人に引き継ぐ条件を決め、引き継いだ理由を記録する

AIが誤った料金や条件を答えてしまうリスクもあります。まずは質問への回答だけを任せ、契約の確定は人が確認する形から始めるのが安全でしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 購買エージェントは製品として買えますか?

いいえ。Anthropicが自社の営業窓口のために作ったもので、単体では販売されていません。

ただし土台のClaude Managed Agentsは公開ベータ版として提供されています。同じような仕組みを自社で作ることはできます。

Q. 営業担当者の仕事はなくなるのですか?

ブログでは、担当者の役割が変わったと説明されています。

検討の早い段階にいるお客さんへの説明、対面での会話、イベントへの参加に時間を使えるようになったそうです。人員削減については触れられていません。

Q. 「成約件数が2.5倍」は本当ですか?

営業担当者1人の実績としては本当です。チーム全体の数字ではありません。

チーム全体の成果として示されたのは、商談に進む割合が2倍超、成約までの期間が約5日短縮、の2点です。

Q. どのClaudeモデルを使っていますか?

公開されていません。使っているツールの中身や、外部システムとの連携方法も明かされていません。

Q. エンジニアがいない会社でも導入できますか?

自作するなら開発者が必要です。エンジニアがいない場合は、PiperやBreeze、immedioのような既製のサービスを使うほうが現実的です。

まとめ

  • Anthropicは問い合わせ対応をAIの「購買エージェント」に任せ、1日数千件の会話をこなしています
  • AI経由の見込み客は商談に進む割合が2倍超、成約までの期間は約5日短くなりました
  • 「成約2.5倍」は担当者1人の数字。チーム全体の成果ではありません
  • 作ったのはエンジニア1人、期間は数週間。土台はClaude Managed Agentsです
  • 成功のカギは、ゴールを渡す・指示を減らす・引き継ぎ理由から学ぶ・お客さん優先の4つです

まずは自社の問い合わせフォームを見直し、「返事までに何時間かかっているか」を計ってみてください。

参考文献