- TechCrunchが2026年9月15日に「AIの墓場」リストを公開。消えたAIサービスを時系列で整理
- 企業のAI施策の42%が中止に。S&P Globalの調査で前年の17%から急増
- OpenAIのSora・Atlas・Operatorなど、大手のプロジェクトも次々に撤退
- 失敗パターンは「コスト倒れ」「大手に飲み込まれる」「ユーザーが定着しない」の3つ
- 日本でもLINE AIアシスタントが終了。使うAIを選ぶときのチェックポイントを解説
「あのAIサービス、気づいたら終わっていた」という経験はありませんか? 2026年9月15日、米メディアのTechCrunchが撤退・閉鎖したAIプロジェクトを集めた「AIの墓場」リストを公開しました。OpenAIのような最大手から、鳴り物入りで登場したガジェットまで、消えた理由には共通点があります。この記事では、リストの中身と失敗パターン、そして私たちがAIを選ぶときに役立つ視点をわかりやすく解説します。
「AIの墓場」リストとは?TechCrunchが公開した理由
TechCrunchの記者ローレン・フォリスタル氏がまとめたこのリストは、「随時更新される墓場(running list)」という形式をとっています。
つまり、一度きりの記事ではありません。今後もAIサービスが終了するたびに追記されていく「記録簿」のような存在です。
リストの冒頭には、衝撃的な数字が引用されています。調査会社S&P Global Market Intelligence(金融・市場データの調査会社)によると、企業のAI施策のうち42%が最終的に中止されているのです。
この調査は北米と欧州の1,000社以上を対象にしたもので、2024年の同じ数字は17%でした。わずか1年で2.5倍近くに跳ね上がったことになります。
さらに、実験段階(PoC=試作テスト)のAIプロジェクトのうち、平均46%が本番に進む前に打ち切られていました。
生成AIブームが始まって約4年。「とりあえずAIを入れてみる」時代が終わり、本当に役立つものだけが残る「淘汰(とうた)の時代」に入ったことをこのリストは示しています。
OpenAIも例外ではない|Sora・Atlas・Operatorの撤退
リストで最も目を引くのは、AI業界のトップランナーであるOpenAIの名前が何度も登場することです。
Sora:1日1500万ドルのコストに耐えられず
動画生成AI「Sora」のアプリは、2026年3月24日に終了が発表されました。
報道によると、ピーク時の1日あたり運用コストは最大1,500万ドル(約22億円)とされています。10秒の動画を1本作るのに、GPU(AI計算用の高性能チップ)を約40分ぶん並列で回す必要があったためです。
一方で、アプリの累計売上は約210万ドルにとどまったと言われています。ダウンロード数も2025年11月の330万件をピークに、2026年2月には110万件まで66%減少しました。
ディズニーとの10億ドル規模の提携も白紙になり、Soraのチームはロボット研究へ移ったと報じられています。
Atlas:292日で幕を閉じたAIブラウザ
ChatGPT Atlasは、OpenAIが2025年10月に出したAI内蔵ブラウザです。しかし2026年8月9日、公開から292日で終了しました。
OpenAIは「ブラウザの機能をChatGPT本体とCodex(開発者向けAI)に統合する」と説明しています。単体のブラウザとして育てるより、ChatGPTの中に組み込んだほうが効率的だと判断したわけです。
Operator・DALL-E:ChatGPTに吸収
ウェブ操作エージェント「Operator」と画像生成「DALL-E」も、それぞれ単体サービスとしての役目を終え、ChatGPTの機能に吸収されました。
これらは「失敗」というより「整理統合」に近い動きです。ただ、ユーザーから見れば「使っていた製品が消えた」ことに変わりはありません。
ちなみに、2026年7月頃に試みられたChatGPTの「スーパーアプリ化」も、ユーザーの混乱と批判を受けて直後に元に戻されました。OpenAIですら試行錯誤の連続なのです。
ハードウェアと大手のつまずき|AI Pin・Siri・Recall
ソフトウェアだけでなく、AIガジェットや大企業の看板機能もリストに並んでいます。
Humane AI Pin:230億円集めて116億円で身売り
元Apple社員が創業したHumaneの「AI Pin」は、「スマホの次」をうたって2024年4月に発売されました。
しかし、応答の遅さや発熱、充電ケースの発火リスクなどが指摘され、レビューは酷評の嵐でした。
結果、2億3,000万ドル(約340億円)以上を調達したにもかかわらず、2025年2月にHPへ1億1,600万ドル(約170億円)で資産を売却。デバイスは2025年2月28日にサーバー接続が切られ、ほぼ文鎮になりました。
Rabbit R1:10万台売れたが「未完成」
同じくAIガジェットのRabbit R1は、初期に10万台を販売しました。ただ、発売時点で機能が未成熟で、大量の返品が発生したと報じられています。
会社自体は2026年8月時点でも存続し、アップデートを続けています。「墓場」に入りかけて踏みとどまっている例と言えるでしょう。
Apple Siri:2億5,000万ドルの和解金
Appleは2024年のiPhone 16発売時に「賢くなった新しいSiri」を大々的に宣伝しました。ところが、その機能はエンジニアリング上の問題で何度も延期されました。
「存在しない機能で買わせた」として集団訴訟が起こり、Appleは2026年に2億5,000万ドル(約370億円)の和解に応じています。対象は米国で買われた約3,700万台で、1台あたり25〜95ドルが支払われる見込みです。
Microsoft Recall:プライバシーの壁
PCの画面を自動で記録する「Recall」は、2024年の発表直後からプライバシーとセキュリティの懸念が噴出しました。再設計を経ても脆弱性(ぜいじゃくせい=安全上の穴)の指摘が続き、リストでは「継続的な課題を抱える機能」として扱われています。
消えた理由を比較|スタートアップに共通する3つのパターン
リストに載ったサービスを見比べると、失敗の理由は大きく3つに分けられます。
パターン1:大手プラットフォームに飲み込まれた
ワークフロー自動化ツールのRelay(Zapierの競合として登場)は、2026年8月15日に無料プラン、9月14日に有料プランを終了しました。
Khosla VenturesやAndreessen Horowitzといった有名VCから計810万ドルを調達していましたが、OpenAIやGoogleが同じ機能を自社ツールに直接組み込んだことで居場所がなくなりました。創業者はGoogleに移籍しています。
音声ニュースアプリのHuxe(2026年5月終了)も同じ理由です。大手が似たサービスを出した瞬間、小さなスタートアップの優位性は消えてしまいます。
パターン2:コストに耐えられなかった
AIキャラクターと会話できるFiggs AIは、100万人以上のユーザーを集めながら2024年に終了しました。理由は「無料で提供し続けるコストを払えなくなった」から。
これはSoraと同じ構図です。生成AIは1回の利用ごとに計算コストがかかります。ユーザーが増えるほど赤字が膨らむ、という普通のアプリにはない特徴があるのです。
パターン3:ユーザーが定着しなかった
複数のAIモデルを試し比べできるYuppは、ピーク時に800以上のモデルに対応していました。それでも2026年3月に終了。「便利だが、毎日使う理由がない」典型例です。
Notion Mailは少し特殊なケースです。2025年4月に登場し、2026年9月22日に終了予定。Notion社によると、メールユーザーの半数以上が受信箱を一度も開かず、AIエージェントに処理を丸投げしていたそうです。人間が使うメールアプリの前提そのものが崩れたわけです。
| パターン | 代表例 | 本質的な原因 |
|---|---|---|
| 大手に飲み込まれる | Relay、Huxe、Atlas | 差別化が薄く、機能が本体に統合された |
| コスト倒れ | Sora、Figgs AI | 利用が増えるほど赤字が拡大 |
| 定着しない | Yupp、AI Pin、Notion Mail | 毎日使う理由がない・期待とのギャップ |
日本市場への影響|LINE AIアシスタントも終了
「海外の話でしょ」と思うかもしれません。しかし、日本でも同じことが起きています。
LINEヤフーは、「LINE AIアシスタント」を2026年1月7日に終了しました。2024年2月に始まった、LINE上で検索や要約、画像編集ができるサービスです。約2年でその役目を終え、後継の「LINE AI」などに統合されました。
これはまさに「パターン1」、機能の重複による整理統合です。
企業側の事情も見てみましょう。帝国データバンクの2026年3月の調査では、生成AIを業務で活用している日本企業は34.5%でした。活用企業の86.7%が「効果が出ている」と答える一方、「情報の正確性」を課題に挙げた企業は50.4%にのぼります。
つまり、日本企業は米国ほど「とりあえず導入して失敗」するケースは少ないものの、これから本格導入が進む段階です。米国で起きた42%の中止という数字は、数年後の日本の姿かもしれません。
個人ユーザーへの影響も見逃せません。Soraは日本でも人気がありました。AI Pinのようなガジェットを個人輸入した人も少なくないはずです。「海外の新サービスに飛びついたら、1年で消えた」というリスクは、日本のユーザーにも現実のものになっています。
生き残るAIと消えるAIの見分け方|3つのチェックポイント
では、私たちはどうやってAIサービスを選べばいいのでしょうか。墓場リストから学べる判断基準を、身近な場面で考えてみます。
チェック1:「大手が同じことを始めたら?」を想像する
たとえば、あなたが小さな会社の総務担当で、新しいAI議事録ツールを契約しようとしているとします。
ここで一度立ち止まって、「この機能、来月ZoomやTeamsが標準搭載したらどうなる?」と考えてみてください。答えが「乗り換える」なら、そのツールはRelayと同じ運命をたどる可能性があります。
独自のデータや業界特化の知識を持つサービスは、大手が簡単にはまねできません。そこに強みがあるかを見極めましょう。
チェック2:料金と提供内容のバランスを疑う
大学生が動画制作にAIを使う場面を考えてみましょう。「高品質な動画が無料で作り放題」というサービスがあったら、むしろ警戒すべきです。
Figgs AIやSoraが示したように、生成AIの運用コストは重く、無料や格安が長く続くとは限りません。「このサービスはどうやって稼いでいるのか」が説明できるかを確認してください。
チェック3:データを持ち出せるかを先に確認する
フリーランスのデザイナーが、AIツールに過去の作品や設定を大量に保存していたとします。そのサービスが3カ月後に終了したら、その資産はどうなるでしょう。
Relayは終了時に全ワークスペースのエクスポート機能を用意しました。Notion Mailも下書きやルールの書き出し期間を設けています。一方、AI Pinはサーバー停止とともにほぼすべての機能を失いました。
導入前に「エクスポート(データの書き出し)」の方法を確認しておく。これだけで、サービス終了時のダメージを大きく減らせます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「AIの墓場」リストはどこで見られますか?
TechCrunchの公式サイトで無料で読めます。英語記事ですが、ChatGPTやGoogle翻訳を使えば内容は十分に把握できます。随時更新されるので、定期的に見返すと業界の動きがわかります。
Q2. AIサービスの42%が失敗するなら、使わないほうがいいのでしょうか?
そうではありません。42%という数字は「企業のAI施策」の話で、残り58%は続いています。帝国データバンクの調査でも、活用企業の86.7%が効果を実感しています。大切なのは「何でも試す」のではなく、目的を絞って選ぶことです。
Q3. OpenAIのサービスが終わるなら、ChatGPTも危ないのでは?
Sora・Atlas・Operatorの終了は、いずれも「ChatGPT本体に機能を集約する」という判断の結果です。周辺サービスを整理して本体を強くする動きなので、ChatGPT自体が消える兆候とは言えません。むしろ本体には機能が増えています。
Q4. 使っているAIサービスが終了したら、何をすればいいですか?
まず終了日とデータ書き出しの期限を確認しましょう。多くのサービスは終了の1〜3カ月前に告知し、エクスポート手段を用意します。次に、乗り換え先の候補を2〜3つ挙げ、無料プランで試してから移行するのが安全です。
Q5. 日本のAIサービスは海外より安全ですか?
国内サービスだから安全、とは言い切れません。LINE AIアシスタントの例のように、統合による終了は日本でも起きています。ただ、日本語サポートや告知の丁寧さでは国内サービスに分があることが多いです。
まとめ|淘汰の時代にAIとどう付き合うか
- TechCrunchが2026年9月15日に「AIの墓場」リストを公開。今後も随時更新される
- 企業のAI施策の42%が中止に(S&P Global調査、前年17%から急増)
- OpenAIのSora・Atlas・Operator、Humane AI Pin、Apple Siriなど大手も撤退や失敗を経験
- 失敗パターンは「大手に飲み込まれる」「コスト倒れ」「定着しない」の3つ
- 日本でもLINE AIアシスタントが2026年1月に終了。企業導入率は34.5%でこれから本格化
- 選ぶときは「大手がまねできるか」「収益モデル」「データの持ち出し」をチェック
今日できる次の一歩は、いま使っているAIサービスの「データ書き出し方法」を1つ確認しておくことです。
参考文献
- The AI graveyard: a running list of projects and startups that didn’t make it – TechCrunch
- AI project failure rates are on the rise: report – CIO Dive
- OpenAI shutters short-form video app Sora as company reels in costs – CNBC
- Humane’s AI Pin is dead, as HP buys startup’s assets for $116M – TechCrunch
- iPhone users could receive up to $95 after Apple agrees $250m Siri lawsuit settlement – Euronews
- LINE、ビジネス対応のAIサービス終了 26年1月に – 日本経済新聞
- 生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月) – 帝国データバンク