AIに依存すると本当にバカになる?最新研究が示す真実と賢い使い方

伊東雄歩
監修者 伊東 雄歩

株式会社ウォーカー CEO。東北大学卒。MENSA会員、JDLA認定講師、健全AI教育協会理事。生成AI×教育・学習科学を専門とし、2億円超のシステム開発プロジェクトを統括。

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「AIを使いすぎると頭が悪くなる」——そんな話を聞いたことはありませんか? 実は2025年から2026年にかけて、MIT(マサチューセッツ工科大学)やスイスのビジネススクールなど、世界中の研究機関がこのテーマを本格的に調べています。結論から言うと、使い方次第で「本当にそうなる」ことが科学的かがくてきに示されつつあります。

この記事でわかること

  • MITの脳波のうは実験でわかった「AI依存で脳が最大55%サボる」という事実
  • 666人調査で判明した「AIヘビーユーザーほど思考力が低い」傾向
  • AIが得意な人ほど逆効果ぎゃくこうかになる意外な研究結果
  • 認知的にんちてきオフローディング」のしくみ
  • AI時代に頭を鈍らせない5つの使い方

MITの実験:ChatGPTで書くと脳が55%も「サボる」

2025年6月、MIT Media Lab(MITメディアラボ)が発表した研究「Your Brain on ChatGPT」は、世界中で大きな話題になりました。SNSでの言及数げんきゅうすうは世界1位を記録したほどです。

実験の内容はシンプルです。54人の被験者ひけんしゃを3つのグループに分け、SAT形式の小論文を書いてもらいました。

  • 脳だけグループ:ツールを一切使わず自分の頭だけで書く
  • 検索グループ:Google検索を使って調べながら書く
  • AIグループ:ChatGPTを使って書く

全員の頭にEEG(脳波計)をつけて、脳の動きをリアルタイムで記録しました。

結果は衝撃的しょうげきてきでした。AIグループは、脳だけグループに比べて脳の神経接続性が最大55%も低下していたのです。検索グループは中程度で、AIグループがいちばん脳を使っていませんでした。

さらに驚くのは記憶の定着です。AIグループの83%が、自分で書いたはずの文章の要点を思い出せませんでした。正確に引用できた人は、わずか16.7%。ツールなしで書いたグループの88.9%とは大きな差です。

研究者たちはこの現象を「認知的負債にんちてきふさい(Cognitive Debt)」と名付けました。借金のように、AIに頼るたびに少しずつ「考える力」のツケがまっていくイメージです。

666人調査で判明:AIヘビーユーザーほど思考力が低い

MITの実験は人数が少なめでしたが、もっと大規模な調査も行われています。

2025年1月、スイスのSBS Swiss Business SchoolのMichael Gerlich氏が666人を対象にした研究を発表しました。17歳から46歳以上まで、さまざまな年齢・学歴の人が参加しています。

参加者にはAIツールの使用頻度ひんどを聞き、同時に「ハルパーン批判的ひはんてき思考テスト(HCTA)」という、思考力を測る専門テストを受けてもらいました。

結果は明確でした。AIツールをよく使う人ほど、批判的思考テストのスコアが低いという関係が見つかったのです。特に「推論」や「熟考じゅっこう」が必要な問題での差が大きく出ました。

原因として浮かび上がったのが「認知的にんちてきオフローディング」です。これは、本来は自分の脳で処理すべき作業を、外部のツールに「丸投げ」してしまう現象のこと。たとえば、電話番号を覚える代わりにスマホに保存するのと同じしくみです。

ただし、学歴が高い人ほど影響が小さいという結果も出ています。日ごろから「考えるクセ」がついている人は、AIを使っても思考力の低下が緩和かんわされる可能性があるということです。

専門家ほど逆効果?組織のアイデアが均質化するリスク

SHIFT AIが2026年1月に発表した「AIトレンド通信1月号」では、MIT・ペンシルベニア大学・ロンドン大学・ミュンヘン大学の研究をまとめて、興味深い傾向を指摘しています。

ポイントは3つです。

1つ目は「学習の浅化」です。AIで情報収集すると、検索と比べて「自分ごと」として理解する感覚が薄れます。結果として、表面的ひょうめんてきで空虚な一般論に終わりがちです。

2つ目は「組織のアイデア均質化」です。AIを使うと個人の生産性は上がるのですが、チーム全体では「似たようなアイデア」ばかりが出てきてしまいます。みんなが同じAIを使えば、出力も似てくるのは当然かもしれません。

3つ目は「専門家への逆効果」です。AIは初心者にとっては便利な「下駄げた」になりますが、すでに専門知識を持っている人が使うと、かえってアイデアの多様性が減ってしまうという皮肉ひにくな結果が出ています。

つまり、AIに頼りすぎると、個人も組織も「考え方が画一的になる」リスクがあるのです。

「認知的オフローディング」のしくみをわかりやすく解説

ここで、キーワードになっている「認知的オフローディング」をもう少しくだいて説明しましょう。

たとえば、あなたが料理のレシピを覚えたいとします。

  • 方法A:レシピ本を読んで、材料と手順を頭の中で整理しながら覚える
  • 方法B:スマホで「カレーの作り方」と聞いて、表示された手順どおりに作る

方法Aでは脳のいろいろな部分が活性化します。「材料を覚える」「手順を組み立てる」「前に作ったときの経験を思い出す」——これらすべてが脳のトレーニングになります。

方法Bでは、脳はほとんど動きません。表示された指示に従うだけなので、記憶にも残りにくいのです。

AIに文章を書いてもらう、AIに調べものを任せる、AIにアイデアを出してもらう——これらはすべて方法Bに近い行為です。便利ですが、脳の「筋トレ」をサボっている状態とも言えます。

MIT の研究チームは「り返しAIに頼ると、努力して考えるプロセスが外部に置き換わり、自立的な思考に必要な認知プロセスが徐々に弱まる」と説明しています。

AI時代に頭を鈍らせない5つの賢い使い方

では、どうすればAIの便利さを活かしつつ、思考力を守れるのでしょうか? 研究結果から導かれる5つのポイントをまとめました。

1. まず自分で考えてからAIに聞く

いきなりAIに丸投げするのではなく、まずは自分の頭で10分間考えてみましょう。自分なりの答えや仮説を持ってからAIに聞くことで、「答え合わせ」として使えます。ペンシルベニア大学の研究でも、AIを使う前に自力で取り組んだグループのほうが、記憶の定着が良かったと報告されています。

2. AIの回答を「正解」と思わない

AIが出した答えを鵜呑うのみにせず、「本当にそうかな?」とうたがうクセをつけましょう。AIの出力を検証けんしょうするプロセス自体が、批判的思考のトレーニングになります。

3. 「作業」と「思考」を分けてAIを使う

SHIFT AIのレポートが提言しているのは、正解が明らかな事務作業にはAIを活用し、深い学びや創造が必要なタスクは人間が担当するという使い分けです。たとえば、データ整理やフォーマット変換はAI向き。企画のアイデア出しや文章の核心部分は自分の頭で考えましょう。

4. AIなしの時間を意識的に作る

週に何回かは、AIを使わずに仕事や勉強をする時間を設けてみましょう。脳の「筋トレ」を定期的に行うことで、認知能力の低下を防げます。

5. AIの出力を自分の言葉で言い換える

AIが生成した文章をそのままコピペするのではなく、自分の言葉で書き直しましょう。MIT の実験でも、AIグループは自分の文章を「自分のもの」と感じられなかった(所有感が低い)という結果が出ています。書き直すことで理解が深まり、記憶にも残りやすくなります。

研究の限界と今後の展望

ただし、これらの研究にはまだ限界げんかいもあります。

MITの研究は54人と少人数しょうにんずうで、まだ査読さどく(ほかの研究者によるチェック)を受けていない予備的よびてきな段階です。研究チーム自身も「恐怖きょうふ」「おろか」「脳がくさる」といった極端きょくたんな表現で解釈しないよう呼びかけています。

また、Gerlich氏の666人調査は「AIをよく使う人は思考力が低い」という相関関係を示しましたが、「AIが原因で思考力が下がった」という因果いんが関係まではまだ証明されていません。もともと思考力が低い人がAIに頼りやすい、という可能性もあります。

2026年は、AIが仕事や学習の場面で「当たり前」になる年です。だからこそ、AIとの付き合い方を科学的に考える研究がますます重要になっています。今後、より大規模で長期的な追跡調査が期待されています。

まとめ

この記事のポイントをおさらいしましょう。

  • MITの脳波実験で、AIを使うと脳の活動が最大55%低下することが確認された
  • 666人の大規模調査でも、AIヘビーユーザーほど批判的思考テストのスコアが低い傾向が判明
  • 原因は「認知的オフローディング」——脳の仕事をAIに丸投げしてしまう現象
  • 専門家がAIを使うとアイデアの多様性が減る、組織が均質化するリスクも
  • 対策は「まず自分で考える」「AIの答えを疑う」「作業と思考を分ける」こと
  • 研究はまだ初期段階。極端に恐れる必要はないが、使い方は意識すべき

AIは間違いなく便利なツールです。でも、便利すぎるからこそ「頼りすぎ」に注意が必要です。AIを「答えをもらう道具」ではなく「考えるための相棒」として使う——それが、AI時代を賢く生きるコツと言えそうです。

参考文献

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